:ZERO HORA

批評雑誌「:ZERO HORA」創刊にあたって
発行くるんば
2024年4月創刊予定

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【 0時からの言葉 芹澤真幸(編集委員) 】

 0時というのは特別な時間ーー否、瞬間だ。それはかつて20世紀を代表する偉大な音楽家の一人アストル・ピアソラが語ったように、昨日と今日の、あるいは今日と明日の境界に開かれた時間である。 
 したがってそれは一つの隙間ーー閾である。ただし、時計の針の通過点に無造作に引かれた0時という境界は、その瞬く間もない一瞬のうちに無限の広がりを孕んでいる。 
 つまり0時というのは、私たちの生活の外部にある、いわば非実在的な時間なのである。生きるための日々の瑣事から解放され、氾濫する情報の激流と合理性の苛烈な要求から隠れ、静かに自らとの関係のうちに没入することの許される時間。それは観念のためでもなく、身体のためでもない、手のための時間だ。あるいはまた、事実性の手前で立ち止まり、内省のうちに試み、書き綴るための時間でもある。つまりそこで行われるのは一つの表現であり、制作である。ーーなるほどそれは明らかに創造的活動ではあるものの、本質的には孤立と孤独のうちになされる一種の自慰行為であらざるをえないだろう。もっとも絶えず自己について語ることを強いられ、他者を欠いたままただ欲望することしかできなくなってしまった近代以降の文明人(私たちのことだ)にとっては、それこそが唯一相応しいあり方であるのかもしれないが。 
 いささかロマンティックな願望だということを認めた上で、私たちは、自らの思索の座がそうした非実在的な時間のうちにこそあらねばならぬと考える。あるいは、その意志に古代の哲学者エピクロスの断片に記された「隠れて、生きろ」という言葉を重ねてみることもできるかもしれない。そう、ロマンティックついでに信じるならば、きっとそれもまた蜂起の一つのあり方なのだ、反復されるーーすなわち絶えず新たに創始されるーー蜂起の中の。去りし日と来たる日の境界に密やかに引きこもり、そこから眺めえた何事かについて語ることは、それだけで名も無き私たちにも可能なささやかな抵抗と連帯の姿なのである。 

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【 いつかどこかの岸辺へ 松村康貴(編集委員) 】

 「いつかはどこかの岸辺に流れつくという信念の下に投げ込まれる投壜通信」 
 パウル・ツェランが詩について語った文章である。この信念を、SNSの時代にあえて手間と費用をかけてまで、印刷物に挑もうとする私たちの拠り所にしたい。 
 〈書く〉ためには未だ出遭わぬ他者が必要である。〈読む〉ためには未来から訪れる他者を待たねばならない。しかしながらSNSは本質的に他者がいない。書くと同時に出会っており、読むと同時に繋がっている。書き終わらぬうちに視られることが確約されており、視覚で捕捉した瞬間に読み終えたかのような満足感をもたらす。もちろんSNSは、分刻みに生き、時間を貨幣として扱う現代人にとって、このうえなく便利なツールである。端末を使い忙しなく応答処理を繰り返すだけで、快楽と安堵をもたらしてくれる。 
 しかしながら私たちが求める幸福はそこにはない。言うなれば、そこからはけっして生じることのない幸福を、私たちは求めている。それは喩えるなら靴職人(書き手)の喜びであり、履き心地の良い靴を手に入れた者(読み手)の喜びだと言ってもいい。そう、他者と出遭うためには、孤独に降りていかなければならないのだ。他者に出遭うことを、独りでじっと待ちつづける時の庭が必要なのである。この断絶、幽閉、始まりである終わり、終わりである始まり、それは〈書く〉ことを、〈読む〉ことを、呼吸することにほかならない。 
 こうした煩わしさを帯びた雑誌活動に対して、むしろやりがいとおもしろさを感じ、ともに歩むことに賛同する書き手と読み手を求めたい。現実に傷つきつつ現実を求めつつ、みずからの存在とともに言葉にむかって行く、書き手、読み手、を。

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寄稿要件

・400字詰め原稿用紙10枚〜50枚程度の完成稿
・論考/エッセイ/コラム等
・締切 2023年12月20日(刊行約3か月前)
連絡先/発行元 くるんば「:ZERO HORA」創刊準備室 
〒665-0841兵庫県宝塚市御殿山3-2-10 FAX 0797-62-6874 Email zero-hora@kurumba-m.com